期間中、本人は来館されないが市立草野心平記念文学館で「寂聴 愛のことば展」が開かれている。作家で僧侶の瀬戸内寂聴さん。多くの聴衆を集める青空説法もよく知られるが、最近はご高齢のせいか控えている様子▼数々の文学賞を受けているが、直木賞には縁がない。山口瞳さんの随筆に「今まであんなにまずい酒を飲んだことはなかった」と記す個所がある。前回この賞を受けた山口さんは、親友梶山季之さんの直木賞受賞を信じて疑わなかった▼「瀬戸内と梶山には、やらんよ」。選考委員を務める文壇の大御所が集まる酒場に乗り込んだ梶山さんが直に耳にした。この言葉で吹っ切れたらしく、怒とうの勢いで数々の作品を世に残した▼同じ選考でもれた当時の瀬戸内さん。その後、出家し名前を寂聴とあらため現在まで精力的に活動を続けている。ステーキを好む健啖家とも聞く。数々の「愛のことば」に込められたメッセージをどう受けとめようか。
片隅抄