国家の非常事態に対処する特殊工作隊、ある地方を支配する有力者一族、さらに寒村で起きた惨劇をプロットに進行する森村誠一原作『野生の証明』。小説、映画で発表されてから、今年で40年になる▼名優高倉健さんを主演に薬師丸ひろ子さんが初々しい演技を披露した。架空のようで現実味を帯びたストーリーは活字、映像で再確認するたび、その思いを強くする。さて、あすから市立美術館で追悼特別展「高倉健」が開かれる▼大物俳優になると何を演じても本人のイメージが強調されがち。高倉さんの場合も任侠の世界で生きる男の役が長く、一見こわもての感もするが後年、北海道を舞台にした「幸福の黄色いハンカチ」「遙かなる山の呼び声」「駅~STATION」では違う一面も見せた▼市井の人たちを題にした「居酒屋兆治」も印象にある。謎に包まれた人物のようであるが、スターは銀幕だけでよい。私生活を世間に紹介する芸能人に魅力はない。
片隅抄