捕手のことを〝女房役〟と呼ぶようになったのはいつごろだろうか▼女房は亭主(投手)のリズムを崩さないために、ファールチップを体に当てても痛いそぶりをしない。捕れそうもない〝捕邪飛〟に迷いなく飛び込んで鼓舞する。時には投手が打たれた責任を捕手のサインミスだと叱責されることもある。それなのに重い防具を身にまとい、ホーム(家)を死守する最後の砦となるのだ▼ジェンダーレスになって世の女房殿は強くなった。遠慮なく亭主の尻を叩くし、堂々と自己主張する。わが身を犠牲にして亭主に尽くす昔のイメージを負った〝女房役〟という言葉は、野球の中で死語になるかもしれない▼夏の福島大会で、エースがピンチに陥ったとき、捕手がマウンドへ激励に駆けつけた。応援席を見て「ほら、吹奏楽部が来てるぞ」と笑った。「あいつ、野球と全然関係ない話をしていった」。肩の力が抜けたエースはピンチを切り抜けた。恋女房は健在だった。