著 者:ジュリー・オオツカ
訳 者:小竹由美子
出版社:新潮社
価 格:2035円(税込み)
泳いでいれば悩みを忘れられる。でも、ある日…
「でも地下のこのプールだと、わたしはわたしなの」
街の通りの地下深くにある公営プールにはそれぞれに痛みや苦しみを抱えながら泳ぐ人々がいました。仕事、家庭、病…思うようにいかないことは水中に沈めるかのように必死に泳ぐスイマーたち。泳ぎ終わると彼女たちは地上に戻り、いつもの日々と向き合えるようになるのです。
ある日、プールの底でひびが見つかったことから、スイマーたちの生活が変わりはじめます。
利用者のひとりであるアリスは認知症が進行してしまい、施設に入ることになってしまいます。日常も名前さえも忘れていくアリスと、そんな母に戸惑う娘。記憶や思い出の波をただよう母娘から浮かび上がるのは、かけがえのない人生でした。
独特の静けさで描かれる物語は、読者の記憶と同調して深い感動をもたらします。消えてしまう切なさと、消えてしまうからこその愛おしさが響き合った、美しい一冊です。
(ヤマニ書房本店勤務)
※紹介する人:内藤ともみさん