東京国立博物館で8日まで開かれた「挂甲の武人国宝指定50周年記念特別展『はにわ』」。全国から〝埴輪ファン〟が訪れ大盛況だった同展の会場に、いわきの神谷作古墳群から出土した国指定重要文化財「埴輪男子胡坐像(天冠埴輪)」がお目見えした。
発掘調査に携わった渡辺一雄さん(94)=県考古学会/文化財友の会いわき顧問=も会場へ。「ひいき目もあるが存在感が際立ち、周囲に人だかりができていた」と時代を超えた人気ぶりを喜んだ。同展は今後九州にも巡回予定で、天冠埴輪の〝旅〟は来春いっぱいまで続く。
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天冠埴輪は古墳時代6世紀のものとされている。渡辺さんら磐城高の史学研究会が1948(昭和23)年12月に行った発掘調査で出土し、10年後に国の重要文化財の指定を受けた。
普段は校内にある収蔵庫で厳重に保管されており、毎年公開日を設けて新入生にお披露目しているが、市民が実物を目にする機会は文化祭に合わせた一般公開日のみ。天候によっては公開できない年もあるという。東京国立博物館では51、78年に展示されたほか、2014(平成26)年に福岡県太宰府市の九州国立博物館でも展示された。
今回の企画展では「天冠をつけた男子」として、地域色豊かな特徴から「埴輪の造形」というコーナーで紹介された。解説では「端正な顔立ち」や「頬の赤い彩色」、そして国内の埴輪では唯一無二の特徴である「ひさし先端に付いた7つの鈴が上下に揺れる三角形の冠」をクローズアップ。
360度確認できるガラスケース内に鎮座し、来場者によれば「平日でも人であふれかえっており、天冠埴輪にも人だかりができていた」「国宝級の埴輪のなかで遜色なく、威風堂々のたたずまいだった」という。
発掘メンバーの渡辺さんは当時「測量係」だった。「数学の先生にお願いして3日間集中的に三角測量を教わり、現場に行ったのを思い出したよ」と懐かしむ。しかし、発掘から70年以上が経過し、喜びを分かち合う仲間はごくわずか。同展の反響から、「最近では埴輪の存在を知らない人も多い」と今後を危ぐしている。
専門家によれば「完全体に近い形で出土していれば国宝だった」。今後、出土品の復元や研究が進めば、「天冠埴輪の知られざる姿が分かり、歴史的な価値がさらに高まるのでは」と、渡辺さんは地元での機運の醸成に期待を寄せる。来年1月21日から5月11日まで、九州国立博物館を巡回する予定だ。
(写真:天冠埴輪の図録を前にする渡辺さん)
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