大勢の人たちでにぎわう日曜日の夕方のサービスエリア。その駐車場で、帰ろうとした抄子たちのオートマの乗用車のクラクションが突然鳴り出し、止まらなくなった▼何が起きたのかわからずパニックとなった。そのとき遠巻きにわれわれを眺めていた人垣から20代の男性がやって来て、「盗難防止装置が作動したんだよ」と教えてくれた▼彼は解除法をアドバイスしてくれたが、正式な方法までは知らなかったようで、音は止まらなかった。やがて別の男性が来て、「こうするんだよ」とキーについていたボタンを押すと、音は止まった▼まさに天の助けだったが、こう思った。逆の立場だったら、20代の男性のように、大勢の人が見ている前で見ず知らずの人のために、一番最初に救いの手を差し伸べる勇気があっただろうかと。大震災のさなかの給水場で、隣の見ず知らず同士、「手伝いましょう」と助け合ったことを思い出した。この世の中、捨てたもんじゃない。
片隅抄