友人の父親がある時期から認知症になってしまった。若いころは大型バイクにまたがって街道を飛ばした人だった▼それが家に帰ると、自分の長男であるはずの友人に向かって「どちらさんで?」と言った。夜中にふいにいなくなることもある。友人はそんな父親の変わりように落ち込んだり、イライラが募ったりした。兄弟の間でも父親をめぐってトラブルが絶えなかった彼らに平穏が訪れたのは、その父親が病死した1年後のことだった▼わが家を振り返ると、80の坂を3つ、4つ越えた両親がいて、いつ同じようなことに見舞われるかわからない。先日、「認知症の人と家族の会」のメンバーが本社を訪れ、話を聞く機会があった。高齢化社会を迎えて、認知症の家族を抱える可能性は少なくないと言っていた▼だから、もっと認知症ということに理解を示してほしいとも。認知症の家族を抱えるときの負担の大きさは計り知れない。友人の様子をみてよくわかった。
片隅抄