何度も読み返す小説に『白い巨塔』がある。著者は先日亡くなった山崎豊子さん。発表から約50年近いが、古さは感じられない。もっとも昭和53~54年に放映された同名のテレビ番組に魅せられ、同書を読み始めた▼主人公の外科医財前五郎、同僚の内科医里見脩二の人間関係を軸に大学病院における教授選、医事裁判、学術会議選など、文字通り「象牙の塔」の内幕を暴くような迫真のタッチで物語が進行していく▼役者の印象が強いせいか財前、里見を演じた田宮二郎、山本學さんの姿が小説の各場面で重なり合ってしまう。配役陣の多くは故人となったが重厚な存在感は、現在のテレビドラマを圧倒する▼山崎さんは、元毎日新聞記者。比較する気は毛頭ないが同様の肩書で堂々と理想、主張を紙誌面で展開する人たちがいる。同小説中、病理学の権威大河内清作教授が敢然と言い放った「自分は厳正中立、公正無私」。喧噪後の後味の悪さは去っていない。
片隅抄