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片隅抄

2010.06.21

 どんな仕事でも日々、学ぶことは多い。わけても人と接することが生業の記者には、より多くの機会があると思っている。70代の名匠を取材したことがある。中で、「今後の抱負は」と尋ね、しっ責を受けた▼「この先は年々、体力も感覚も衰え、今までと同じレベルの仕事ができなくなるのが道理。それが分かっているのに、より一層いい仕事を、などそんな無責任なことは言えない」、それが浅はかな問いに対する返答だった▼当時は「職人魂の潔さ」を第一に感じたが、自身も年を重ねた今は、まず「どんな思いで言ったのだろう」と考える。迫り来る老いに職人としての矜持をどう保つか、苦悩したと思う。「人生」を考えた。そしてこの先、自分が似た境遇になったとき、この場面を再び思い出す日がくる気がしている▼「出会いは学び」を仕事の中で体感した例である。新年度から3カ月、最初の壁と対峙しているだろう新入社員の一助になればと思い、披歴した。

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