戸川猪佐武著『小説吉田学校』に次の場面がある。―田中は、連絡のために本会議場をあちこち歩いている大平派の加藤紘一官房副長官を手招きした。紙片に達筆で、「解散」と、二文字を書いて手渡した。「大平君に届けたまえ」▼過去、何度となく提出されてきた内閣不信任決議案。近年、可決した例として、昭和55年の第2次大平内閣がある。火種となった自民党内反主流の動きをあらゆるチャンネルを駆使して、「党を出ることはない」と分析した田中角栄氏▼メモは最終的なものだったが、盟友大平首相に不信任案可決後の一手に解散、さらに衆参同日選挙を進言した。さて、場当たり的な「退陣の意向」を表明したことで、辛くも不信任案を潰した菅首相▼与党内の不満分子が抑え込まれ、二手三手が打てなかった野党も渋面だ。仮に総選挙が実施された場合、混乱は免れなかったろう。震災後、県議選の見通しも立たない状況である。筋の通らない話だ。