しずかなしずかな里の秋/おせどに木の実の落ちる夜は―。唱歌「里の秋」の一節。先日、狩猟解禁の取材のため、早朝の田人町を訪れた▼朝もやと静寂に包まれた雰囲気にこの歌詞を思い出した。出発時、頭上に冴え渡った月も時間とともに姿を消し、薄紫色の雲の間から朝日が昇る。眠たく震える状態だったが、晩秋の旅先で早起きした感覚になった▼田人町からほど近い遠野町。この地には古くからの伝統技術が息づいている。いわき遠野和紙で知られる紙漉き、野鍛冶、木桶、竹細工などかつての地場産業も時代の推移とともにその灯火もか細くなりつつある▼これらの技術伝承を目的にした「磐城手業の会」が13日から初級講座を開講した。いわき遠野生活アートギャラリーを会場に各分野の職人さんたちが受講生を指導。このうち野鍛冶の部では、真っ赤な鉄に黙々と鎚を振るう匠の姿に日本人のものづくりの原点を見た気がした。絶やしてはならない。
片隅抄