哲学を日常の言葉で表現した文筆家池田晶子。「考えることに終わりはない」と説き続け5年前の2月に46歳で没した▼翌年にその業績を記念し、思索を言葉により表現し新しい形式での表現を目指す担い手を応援する「池田晶子記念わたくし、つまりNobody賞」が創設された。今年の受賞者に県内出身の作家大野更紗さんが決まったと知り、著書を求めた▼表題は『困ってるひと』。難病を生きる自身の姿を独自のユーモアで表現し切ったエッセーで、昨夏の発売以来、各書評でも取り上げられている。冒頭にある「絶望は、しない」には、福島を共通項にする多くの読者が勇気づけられたのではないかと感じた▼そして何より、人間の存在意義を問うた苦難の闘病記録を、軽やかささえ漂う手法で書いた陰には「なぜ生きるのか」を考えるに十分な「書き手の力」があった。それは、考えることの大切さを分かりやすく書いた池田氏の著作でも感じた力だった。