週末に船の事故が相次ぎ、死者も出た。さらに奄美沖のしけによる転覆漁船の行方不明者は、宮城県気仙沼の津波被災者と聞き、言葉をなくした▼こうした事故は、漁業ともに歩んできたいわき沿岸部においても人ごとではない。地区にもよるが昭和40年代までは、住民のおおかたが漁業関係者といっていいところもあり、その幾人かは海で命を落としている。自身も肉親がその目に遭っている▼小説家楡周平の近著 『羅針』 は、北洋でサケマスを、南氷洋でクジラを追う機関士の物語。同じ釜の飯を食う仲間の事故死や氷との戦い、遭難といった「乗ること自体が命がけ」という船の過酷さに胸が詰まった。が、こうした荒れた海、逃げ場の無い船の怖さを知りつつも、海に生きようとするのが船乗りでもある▼この覚悟は今のいわきの漁船員にも深く通じるものに相違ない。なのに彼らを原発事故の放射能汚染が阻んでいる。漁ができぬ空しさの消える日はいつ来るのか。
片隅抄