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片隅抄

2013.10.10

40年も前の話になるが、常に背筋のピンと伸びた端正な背広姿が印象深い中年の知人男性がいた。が、彼には片腕が無かった。戦争で銃撃を受け切断したという▼片手にもかかわらず、風呂敷の結び目を器用に解く姿が忘れられない。何十年もの日々を、そうして過ごしてきたのだろう。またわが伯父は、南方戦線でマラリアに罹り高熱とけいれんに苦しんだことをよく話してくれた。実体験はないものの、こうした出来事から戦争の悲惨さを実感しながら育った▼「日本傷痍軍人会が60年の歴史に幕を閉じ解散へ」の報に触れたのは、ちょうど1週間前。35万人いた会員は5000人に減り、平均年齢は92歳という現実に隔世の感を抱いた▼その際の84歳の会員の言葉に幼き日の思い出が重なった。「解散するのは日本が再び戦争をせず、新しい傷痍軍人を出さずに済んだから。われわれのような思いをする人が二度と生まれないように」。戦争を生きた人々の心の叫びである。

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