混乱を極めた震災直後のことを時に思い出す。生活全般はもちろんだが、日ごろ「飲む、吸う」こちらにとって嗜好品が手に入らなかったことが痛かった▼たばこは常磐の知り合いの店から調達できたが、酒は少し時間がかかった。ほとんどの店が閉じられる中、ある1軒の酒屋さんがシャッターを開けていた。もちろん営業していたのではない。揺れで落ちた商品の片づけをしていたのだろう▼店主のご好意で散乱する店内から1本のウイスキーを購入した。普段は見向きもしなかったランク下の銘柄だったが、その晩飲んだ琥珀色の液体がこれまでになく臓腑にしみ入った。NHK朝の連続ドラマ「マッサン」効果で国内産ウイスキーの需要が高まっているという▼少し前まで、焼酎に酔ったドリンカーはどうしているのだろうと、皮肉ってみたくもなるが嗜好品ゆえよしておこう。あの晩の味を再び得ることはないが、飲めない、酔えないつらさはこりごりだ。