初心忘るべからず―入学式や入社式で、よく新人に贈られる戒めの言葉である。「最初のころの真剣な心をいつまでも持ち続けて」という意味は周知の通り▼が、長い間には考えが変わることや気持ちが折れることもあろう。そう思うとこの言葉は「初心想起すべし」と言い換えて、1年、2年と経験を積んだ人に向ける方が適切なのかもしれない▼ところで「忘」は字形から「心がな(亡)くなる」ことを表しているのは一目瞭然。これに限らず、漢字には形で深い意味を示しているものがいくつもある。それをしみじみと感じたのが、詩人・故吉野弘さんの「漢字遊び」の作品群だった▼『「止」戯歌』という詩の一節には〝「歩」は「止」と「少」からできています〟とある。歩くには止まるが少しだけ含まれている―つまり、時には止まることも大切と示唆しているのだ。新人諸君、前進を続ける中で行き詰まった時、こんな言葉を想起するのも悪くないかもしれない。