文庫化された『辞書になった男~ケンボー先生と山田先生』を読み「自分がことばを扱う仕事をしているというのは〝思いよがり〟だった」と痛感した。同書は『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』という2つの辞書の編纂者、見坊豪紀・山田忠雄両氏を巡る物語。「ことばは音もなく変わる(見坊)」「ことばは、不自由な伝達手段(山田)」に、ことばの本質が見えた▼第7版を数える『三省堂国語辞典』に収録されているのは8万2千語だが、初代編集主幹だった見坊氏は生涯に何と日本語の用例を145万語集めたそうだ。辞書に載らないことばが多数あることも、あらためて知った▼そして現在の同辞典の編集委員飯間浩明氏も、一万数千語を集めた(『辞書には載らなかった不採用語辞典』より)という。〝思いよがり〟もその一つ。思い上がりと独りよがりが混ざった表現と考えられ、まだ定着していないとし、不採用に。誤用としない飯間氏の姿勢に多くを学んだ。