これがセンバツのよさなんだというシーンを見て目頭が熱くなった▼〝二十四の瞳〟〝さわやかイレブン〟の異名でそれぞれ準優勝を飾った中村(高知)の12人、池田(徳島)の11人より少ない部員10人の岩手県立不来方高校。初戦敗退したが、9回1死から、それまで伝令役としてずっとベンチを温めていた背番号10の斉藤圭汰君が代打で登場すると球場を包む雰囲気が変わった▼打席では、ファウルで粘るたび球場が沸いた。「いいぞ、やるじゃないか。頑張れ、塁に出ろ!」。憧れの甲子園で、たった1人の控え選手として裏方役に徹してきた斉藤君を応援するファンの後押しだった。平凡な中飛に終わったが、再び大きな拍手が沸き、チームメートも笑顔で斉藤君を迎えた▼3人の女子マネジャーも、1人は制服姿で記録員を務め、残る2人は背番号付きのユニホームを着用してアルプススタンドから応援した。13人は、勝利にもまさる素晴らしい体験をしたはずだ。
片隅抄