農家の次男坊として生まれたのに、ほとんど農業を知らないまま育った▼後に跡取りになることが決まっても、会社の仕事が忙しいのを言い訳に逃げ回ってきた。そんなだから、今になって集落での順番で「農事組合長」を仰せつかり、新年度からは「農政部長」という肩書もつく予定で頭を抱えている▼天皇陛下でさえ自ら籾をまき、田植えをし、秋には鎌で稲刈りをされる。今どきの小学生は大型のコンバインを操作して稲刈り体験をするというのに…だ。両親とも90歳を超え、水田は別の農家に管理をお願いしているが、畑はこのままでは耕作放棄地になりかねない▼ご先祖様はさぞ嘆いていることだろう。農業を知らない農家の跡取り息子、集落の先輩方からお叱りを受ける農事組合長、農政部長ってほかにいるのかいないのか。農家の後継者問題の現状はどうなのだろう。今になって野菜の栽培の本を読んでいたら娘に言われた。「まずアサガオから育ててみたら?」
片隅抄