来月12日まで市立美術館で開催している企画展「松本竣介《街》と昭和モダン」に足を運んだ。大学で芸術史を学んだ細君と違い絵心なく、松本の生い立ちはもちろん作品すら知らない身だが、それでも表題の《街》を前に心揺さぶられた▼松本は小山正太郎らが創立した太平洋美術会の前身校で学びを深め、僅か6年で二科展に入選。《街》は影響を色濃く受けた米出身の洋画家野田英夫が急逝した翌年、昭和13年の代表作だ。洋風の街並みに街路を行き交う人々。佇むワンピース姿の女性に、世界恐慌後の不安定な社会情勢を重ね暗澹たる感想を抱いた。一度見ただけではモノ足りない▼松田文雄の写実表現、麻生三郎の深みにも惹きつけられ、藤田嗣治のデッサン画に心躍った。なんと見ごたえある企画展だろう▼と、帰り際に立ち寄った常設展で仰天。一度お目にかかりたいと願っていた同世代の星、日本画家松井冬子の新収蔵作品が。僥倖のめぐりあいに心弾んだ。
片隅抄