双葉郡富岡町と大熊町には似た地名が隣接する。一方は「小良ケ浜」、もう一方は「小良浜」。この地のいわれには、戦国時代に浜通りの覇権を競った、いまのいわき市を拠点にした岩城氏と、南相馬市を中心とした相馬氏との領地争いがある。それぞれに帰属する領民が「ここはオラの浜だ」と主張したことに由来するという▼市勿来関文学歴史館で、企画展「動乱の中の猪狩家~戦国時代の岩城氏家臣~」が始まった。猪狩家は、奥州探題の伊達氏との外交を担っており、会場には〝独眼竜〟で知られる伊達政宗が関ケ原合戦の直前、上杉氏の征伐に向かう際に岩城領を通過したことへの礼状など、歴史ファン垂涎(すいぜん)の初公開史料が並んでいる▼惜しいのは、企画展のチラシにこうした情報が少ない点。そもそも戦国時代の南東北は、群雄割拠で見どころが盛りだくさん。岩城氏の果たした役割も大きい。まだまだ観光資源は眠っている。ここにも市の発信力が問われている。
片隅抄