サッカーW杯では、日本が強豪スペインを破った試合で三苫薫がゴールラインぎりぎりでボールを折り返し、田中碧のゴールにつなげた執念のプレー〝三苫の1ミリ〟が光った▼肉眼ではラインを割ったように見えたが、「VAR」はボールが僅かにラインに触れていたと判定した。テニスやバレーでは「チャレンジ」、ラグビーは「TMO」、野球も「リクエスト」と、きわどい場面を科学の目が正確にとらえている。大相撲でも勝負審判が〝疑わしきは物言い〟とビデオ判定に委ねている▼どの競技でも年々、選手のプレーが高度化して人間の目がついていけなくなったこと、ビデオの技術の進化が今日のシステム導入につながったのだろう。ならば、86年のアルゼンチンW杯優勝時のマラドーナの神の手(見逃されたハンド)もなかったはずだ▼そんな中でも野球のストライク・ボールはまだ人間が裁いている。判定にまつわる血の通ったエピソードはまだ語り継がれる。
片隅抄