1人の憲兵が地図を見てつぶやく。「タンカンワン?」。それを地元の人が「ヒトカップワン(単冠湾)です」と言い直す。日米開戦前夜、日本に潜入した日系スパイが海軍機動部隊の動向を探る、NHKBS「エトロフ遙かなり」が先日放送された▼30年前の番組で、1度見たきりだった。再放送を知り知人に頼み、録画してもらった。あらためて見直すと、切迫した状況が画面から伝わってきた。原作は佐々木譲著『エトロフ発緊急伝』。こちらは発刊当時に読み込んだ▼米国スパイと防諜任務を帯びた東京憲兵隊の追いつ追われつの最終章は、北の果て択捉島に行きつく。湾に結集した大艦隊の出撃はいつか。スパイの打電は本国に届いたか。そして運命の12月8日を迎えた▼日本勝利の裏に敵空母を取り逃がした事実がある。情報戦でしてやられ、外交での挽回もままならず無謀な戦いに突入してしまった。歴史に「if」はないが、つい考えてしまう。