2021.12.03
歌舞伎の世界にはとんと疎いが映画、テレビを通じ、役者個人はなじみがある。その一人、池波正太郎原作『鬼平犯科帳』長谷川平蔵の当たり役だった中村吉右衛門さんの訃報が伝わった▼吉右衛門さんの鬼平版は、平成元年からテレビでシリーズ化された。原作、脚本に加えフィルム撮影を施した奥深い映像美と個性豊かな俳優陣による上質の時代劇だった。市井を騒がす悪事には情け容赦ないが、一筋の優しさも秘めた裁きを下すこともあった▼鬼平を日本のフィルム・ノワールとすれば、本場ハリウッドの代表的スターは、ハンフリー・ボガート。この名優を特集した番組にファンでもあった吉右衛門さんがゲスト出演し、その魅力を語った▼〝虚〟の世界だが、共通するハードボイルドの根底には「やせ我慢」がある。江戸の治安維持という重責ながら、その報酬は多くはない。配下のため金策に走り、妻に愚痴りながらも役職を全うする。実社会で重なることは多い。