2011.08.15
この時期になると開く2冊の本がある。井上ひさしの『父と暮せば』とこうの史代の漫画『夕凪の街 桜の国』だ▼いずれも広島で被爆した若い女性が主人公、そしてどちらも「生き延びたことを申し訳ない」と思って生きているのだ。『父と…』は終戦から3年後、そして『夕凪の…』は10年後にまで及ぶ▼大切な人々を原爆で失い「自分だけ幸せになってはいけない」と自身に言い聞かせながら、静かに生きる2人。年月を経ても癒えぬ悲しさと戦争の無残さに、心の凍る思いになる。そして今、震災後初のお盆。犠牲者の遺族の中には、同じ思いを抱えている人がいるかもしれない▼しかし、亡くなった人の分まで生きるのが、私たちの役目だと思う。なぜなら「人は自分だけで生きているのではなく、周囲によって生かされている存在」なのだから。敗戦から再起したように、今度は震災から復興していくことが、無念の死を遂げた人々への何よりの供養に相違ない。