『上海灯蛾』
著 者:上田早夕里
出版社:双葉社
価 格:2,200円(税込み)
※紹介する人:八巻明日香さん
戦時中暗躍する阿片売買一攫千金狙う日本人青年
戦争の気配も色濃い1934年。
「東洋のパリ」とも呼ばれ、猥雑で賑やかな熱気に包まれた国際都市・上海で雑貨店を営む日本人、吾郷次郎のもとを一人の女性が訪れる。原田ユキヱと名乗る女性は、満州の熱河省で生産された特別な阿片煙膏を携えており、それを売り捌いてくれる相手を紹介してほしいという。
阿片は禁制品でありながら、富裕層から労働者階級まで広く浸透し、国家予算規模の富を生みだしていた。関東軍の厳しい管理下に置かれているはずの熱河省産を、軍の目を盗み売買することは非常に危険な行為と知りつつ、地方の貧しい農村出身だった次郎は莫大な富に魅せられ裏社会に食い込んでゆく。
上海を裏から支配する結社「青幇」の一員である楊直と義兄弟の契りを結び、自身も中国人のふりをして、楊直とともにビルマでの阿片と芥子栽培に乗り出していた次郎だが、やがて特務機関の捜査の手が迫り……。
第二次上海事変を経て激化する抗日戦争の裏で繰り広げられる、阿片をめぐる日本と中国の戦い。知略をめぐらし、上海の裏社会で生き残りをかけて戦う男たちのもう一つの戦いに興奮し、その熱量に圧倒されること必至の1冊です。
(鹿島ブックセンター勤務)