いのちを描く ボタニカルアートの世界(ボクハンツバキ)
絵心が沸く重量感と存在感
会合の折、友人が「珍しい種類が綺麗に咲いたから皆にあげようと思って…」と数枝を持ってきた。ツバキの花? 見るとヤブツバキとは様子が違う。「ボクハンツバキ、変わっているでしょ」。見た瞬間、絵心が沸いた。つい、無心をして一枝頂いた。
ボクハンツバキは魅力ある花だ。花弁は一重小輪、色もヤブツバキの明るい紅色に比べて濃色。大型でより華麗なツバキは他にいくらでもあるが、この花の特徴は花の中央に位置するシベ(蕊)の形状にある。
唐子咲という、オシベ(雄蕊)の先端が花弁のように変化して捩(ねじ)れ、盛り上がっていて、小輪なのにとても重量感と存在感がある。加えて花の濃い紅色と白く大きなシベ、艶のある深緑色の葉の色とが互いに引き立て合って、細い一枝さえも目を惹いて離さない。
ボクハンツバキは江戸時代、泉州貝塚(現在の大阪府貝塚市)内の願泉寺住職・卜半(ぼくはん)によって育てられたと伝えられている。当時、椿が流行して多くの品種改良がおこなわれていたという。
この花も江戸時代初期から人気があったようだ。障壁画や屏風絵から抜け出してきたような雰囲気のあるこの小粋な花を描ききれるだろうか。