いのちを描く ボタニカルアートの世界(ムシトリナデシコ)
ハエトリグサと母との思い出
ムシトリナデシコ――。この名前に記憶はない。調べると、昔、ハエトリグサと呼んでいた花と知った。初夏、すらりと伸びた茎の先にピンク色の小さな5弁の花がたくさん咲いて目を惹く。手折ろうと茎に触れるとペタッとくっつく。花柄の真下に幅1㌢ほどの淡茶色のねばねば部分がある。食虫植物ではないし、実際にハエを取るのかどうかも分からないが、本などでは花粉を採りに来るアリ除けなのだろうと記述している。
先日、門の傍で幼苗が2、3輪の花を咲かせているのを見つけた。そういえばここ何年も見ていなかった。懐かしい花、子供の頃の記憶が一気に蘇った。
そこは、当時住んでいた家の庭で、若かった母と一緒にいる。母は「ハエトリグサというの。ここ、べたべたするでしょ。ハエを捕るのよ」と話している。べたべたする箇所が当時ハエを捕るのにどこの家庭でも使用していた『ハエ捕りリボン』の色や感触にそっくりだった。鮮明な記憶、懐かしい花。久しく忘れていたが今もあるだろうか。
急に絵心を覚えて探すと、何と、近くの街路樹下の花壇に沿って群れていた。昔と変わらぬ姿で列をなして直立し、たくさんの細かいショッキングピンク色の花が梅雨空の下で目に鮮やかだった。