いのちを描く(オナモミ)
実を投げて遊んだ昔の記憶
オナモミを見なくなってから久しい。子供の頃には荒れ地や畑の縁など身辺にたくさん生えていたと思う。『ひっつきむし』とか『ドロボウグサ』とか呼んで、この草の実を投げ合って遊んだものだ。気にもしていなかったが、知人に「全く見ないよ」と言われて、そういえば最近見ていないと気が付いた。
調べてみると、日本固有種のオナモミはほとんど見られなくなって、今見られるのは外来種のオオオナモミとイガオナモミだそうだ。その両者も河川敷や荒れ地などに生育することから、同じような環境に繁殖するセイタカアワダチソウなどに駆逐されて見つけるのが困難になっているという。
ただの厄介者としか思っていなかった植物の行く末を思い、急に「ドロボウグサ」が恋しくなった。
知人の家にあるというので訪れた庭には2、3株のオナモミが実をびっしりと付けていた。近くの河川敷でようやく見つけたのだという。
「でも、これはオオオナモミなのです」。実の形が細長く、先端に2本の尖った角の出ているのが相違点なのだそうだ。
見ているうちに、実を投げ合った友達の顔が浮かんできた。あの頃は楽しかった。私たちは幸せだったのだ。