ふるさと自然散策・いわき昆虫記110
チキチキと音立てて飛ぶ
平藤間の「新舞子浜公園」を散策した。
新舞子浜沿いのクロマツ林には常緑照葉樹も育ち、林縁に生えたハギが赤紫色の花を咲かせるなど季節の彩りも豊か。
林内の茂みではカネタタキやアオマツムシが鳴き、林床ではスズムシやコオロギが美しい音色を奏でているが、これら夜行性の昆虫は滅多に姿を現わさない。遊歩道を通り抜けて、明るく開放的な草原に出た所で出会ったのが、バッタ科の「ショウリョウバッタ」だった。
草地に脚を踏み入れるたびに、地上にいた体長5㌢ほどの雄のショウリョウバッタが驚いて飛び立つ。太くて頑丈そうな後肢で地面を蹴って跳び、翅を広げてチキチキチキチキと派手で大きな音を立てながら羽ばたくが、身を隠せる着地点が見つかるまでどこまでも飛距離を伸ばす。自身の姿を心得ているようだ。
緑色をした頭部の尖った細身の体形はススキの葉に紛れて目立たない。翅全体にイネ科植物の葉脈が緻密に再現され、褐色の触覚や肢は枯れ草のよう。隠蔽的擬態へと進化した究極の姿だ。
ショウリョウバッタは、お盆の時季に成虫が見られるようになる事から、精霊に見立てたのが和名の由来だとか。育った環境の違いによって、緑色型と褐色型の体色の違う2つのタイプが存在する。
新舞子浜公園で見かけたのは音を発する雄ばかりだったが、前日に、夏井川河口近くの河川敷で大きな緑色型の雌の姿を観察している。とても雄と同じ種とは思えぬほど大きな体格で、体長8㌢を超えるサイズは日本のバッタの最大級。
ショウリョウバッタの雄が大きな羽音を立てて飛ぶ本来の目的は、地面にいる雌への求愛のメッセージなのだろう。