ふるさと自然散策・いわき昆虫記111
蜂に擬態をした送粉者
平下高久地内の里山を散策して、昆虫を探した。人里を少し離れた丘陵地は、稲刈りを終えた田圃が広がり、溜池があり、深い雑木林に包まれていた。「キチキチキチキチ、キョンキョン」と静寂を破るモズの高鳴きと「ギャー、ギャー」と鳴くカケスの声も騒々しいが、これに冬鳥ジョウビタキも加わって、里山の情景を演出していた。
木々の彩りも豊かな季節を迎え、吹き抜ける風も涼しくなった。気温が低下すると虫たちの活動もままならないが、この日、チョウやハチ、バッタなど、多くの昆虫を誘っていたのが、休耕田に繁茂したセイタカアワダチソウやアメリカセンダングサの花々だった。いずれも北アメリカからの帰化植物で、日本の里山の風景としての景観を損ねているが、花の少ない時期の蜜源植物として、虫たちにとっては魅力的な存在なのだろう。晴天の太陽光線を受けて輝くふかふかのセイタカアワダチソウの花は暖かそうだ。ここに集まっていたのが、ハナアブ科の「オオハナアブ」だった。
オオハナアブはハナアブ科昆虫の代表種で、体長およそ15㍉の小さな丸い体つきをしているので、愛くるしい。全身が毛むくじゃらで暖かそうだ。黒い体色の腹部にオレンジ色の帯状のカラーリングがとても目立ち、全体的なフォルムはツツジの花などに飛来するクロマルハナバチそっくりだ。毒針を持つ蜂になりすまして我が身を守る作戦らしい。
幼虫期は水中で過ごし、成虫は花を訪れ採餌する。糖質を花の蜜から、タンパク質を花粉から摂取するが、さまざまな植物の花粉を運んで受粉を担う送粉者としての役割は大きい。