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ふるさと自然散策・いわき昆虫記114 ―クビキリギス―

文と写真・ 鳥海陽太郎(いわき地域学會会員)

成虫の姿のまま冬を越す

 平上平窪地内の里山へ出掛けた。晴天なのに吹き抜ける風は冷たく、飛ぶ虫の姿は無い。越冬中の昆虫を探してみよう。
 溜池に隣接した明るく開放的な雑木林は、青空からの太陽光線と溜池の水面からの反射光に照らされ、陽だまりになっていた。林床の落ち葉の上の温度測定値15℃越えは暖か。ふかふかの落ち葉の中には多くの虫が潜んでいるに違いない。
 落ち葉を掻きわけ始めて間もなく出てきたのは、黄緑色でスリムな体型をした体長6㌢ほどの「クビキリギス」だった。後脚で跳ね、長い翅を広げて飛んだ。
クビキリギスは、バッタ目キリギリス科の昆虫で、頭が鋭く尖った三角形をしているのが特徴的。植物の葉に擬態していて、翅全体に緻密に刻まれた凹凸は、イネ科の葉脈を見事に再現している。真っ赤に染まった口がグロテスクだが、これはすべての個体にある赤色斑で、血痕ではない。摂食は植物食強めの雑食性。
 成虫には、全身黄緑色をしたものと褐色のものの2つのタイプが存在する。撮影中にも褐色型の姿を見かけたが、すぐに見失ってしまった。落ち葉の中では、褐色型の方が隠蔽効果に優れている。
 暦の上では春を迎えたが、クビキリギスにとってはまだ冬真っただ中。もうしばらくの間は、落ち葉の中に身を置いて、厳しい寒さや天敵から身を守るべく、息を潜めてじっとしていることになる。
早春植物が色とりどりの花を咲かせる季節の到来とともに、草むらの中から「ジーーーー、ビーーーー」と、うるさいほどの大音響が聞こえてきたなら、それはクビキリギスの鳴き声に間違いないだろう。寒さから解放されて、繁殖のシーズンを迎えることになる。

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