わたしが薦めるこの1冊
『上村松園随筆集』
著 者:上村 松園
出版社:平凡社
価 格:1760円
※紹介する人
八巻明日香さん
美人画の大家が飾らない
言葉で綴った芸術への道
「西の松園、東の(鏑木)清方」と称された美人画の大家、上村松園の随筆集がこのほど文庫サイズで刊行された。
松園と聞いてまっ先に脳裏に浮かぶ、柔らかな佇まいのなかに凛とした気品を漂わせた女性たち。本書では、その美しさを生みだすために松園が一生涯重ね続けた研鑚の一端を窺い知ることが出来る。幼い頃から近隣の家々に上がり込んでは所蔵されている名画を熱心に模写して回り、その習慣は終生変わらず、描き溜めた模写は5000枚にも及んだという。加えて、拙作と評された作品からも何がしかを学びとろうとするような貪欲な研究心、そして自らの芸術観……。
明治・大正という時代に女性が筆一本で身を立てるにはかなりの障害と、それを上回るほどの強い決意があったはずで、「絵筆三昧」という境地まで達したことへの自負や、見守り続けてくれた母への思慕、画業にまつわる色々な話を飾らない言葉で訥々と語っているが、文章のそこかしこからは、静かに燃え盛る画業への情熱と気迫がゆらりと立ち昇ってくるかのようだ。
芸術の秋、実際に作品に触れるのはもちろんのこと、たまには文章で芸術を感じてみるのも良いのでは。
(鹿島ブックセンター勤務)