文学賞・吉野せい賞 今年も正賞に該当作なし 準賞は平の関口さん
小名浜出身の作家で、「洟(はな)をたらした神」で知られる吉野せい(1899~1977)の業績を記念し、新人の優れた文学作品を顕彰するとともに、いわき市の文化振興を目的にする「第46回吉野せい賞」受賞作が17日、発表された。
昨年に続き正賞の該当作はなく、これに次ぐ準賞に就職活動、大学受験に失敗しながらも、道路工事作業員のアルバイトを通して、肉体労働や人間関係の変化の中で自分自身を見つめ直す青年の姿を描いた、無職関口卓男さん(68)=平=の創作(小説)「ひと夏の汗」が選ばれた。
奨励賞は契約社員沢葦樹さん(61)=錦町=の創作(小説)「スリーベースヒット」、公務員山田洋平さん(50)=平=の創作(小説)「沈黙のブラック・バード」、無職滝英長さん(67)=常磐=の創作(小説)「幸せの赤い靴」、青少年特別賞には中学3年・渡部綾音さん(15)=平=の創作(小説)「放課後、キミ色に染まって」、中学2年・三原由莉さん(14)=勿来町=の創作(小説)「ビー玉」が選ばれた。
受賞作は総合文藝誌『風舎』第18号(来年3月発行予定)に掲載する。審査結果の発表は市役所記者クラブで行われ、出席した吉野せい賞運営委員会の鈴木英司委員長、吉田隆治選考委員、井坂泰一市文化交流課参事兼課長、田口博章同主査が受賞理由、選考過程、選評などを報告した。
今回は市内外から35編(小説29、童話3、戯曲1、ノンフィクション2)の応募があった。吉田選考委員は準賞について、<1>主人公の日常を淡々と描く文体にひかれた<2>ブルーカラーのアルバイトの現実をこれでもか、これでもかと描写することで、逆に人柄が浮き立ってくる<3>細部にリアリティーがあり、文章が生き生きとしている――と評した。
鈴木運営委員長は、全応募者のうち10代が3分の1近くを占めたことに「若い才能を発揮する場として好ましい傾向」と話し、芥川賞作家、吉野せい賞受賞者らが講師を務め、同運営委員会と市が実施する一般・学生に向けた「文章講座」が好影響しているとの考えを示した。
表彰式は11月4日午後1時から、市立草野心平記念文学館で行われる。