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最高の笑顔と元気を届けたい

「最高の笑顔と元気を届けたい」
フラガール(第57期生) 片寄 綾乃さん

被災したのは小学3年生。避難先でピアノを弾く機会があって、集まった人たちが「元気になったよ」と喜んでいたことが、ずっと心に残っていました――。好間出身の片寄綾乃さん(57期)は昨年、30年ぶりという異例ともいえる〝部署異動〟でフラガールの夢をつかみ取った。8月のデビューステージ、観客席には辛い時も悲しい時も共感し、背中を押してくれた家族や友人、同僚の姿が。片寄さんはうれし涙をこらえ、最高の笑顔と元気を届けようと、精いっぱいの踊りを披露した。

「悔しく悲しくて仕方なかったんですが、『自分らしさ』を引き出せなかったから……」
進学した好間高でフラとタヒチアンダンスの経験を積み、2つ上の先輩がフラガールとしてデビューするのを目前にし、プロを志した。勉強、生徒会活動に打ち込み、合間には中学時代に没頭した吹奏楽のスキルを生かして市内の楽団でも活動。フラでは震災の記憶をもとに、「ひとりでも多くに元気と笑顔を届けたい」と慰問活動にも全力を注いだ。
万全で臨んだ試験の結果は、まさかの不合格。ただ、青春を打ち込んできたフラへの情熱は冷めることはなかった。「違う部署での採用なら」との誘いに飛びつき常磐興産に入社。配属された料飲部では裏方としてがむしゃらに働き、フラガールがどれだけの人たちに支えられているのか、羨望のまなざしを向けられているのかを実感した。
そんなとき、一緒にステージに立てたかもしれなかった同期入社のフラガールたちが踊る姿を見て、「私にはフラガールしかない」との思いを新たにした。休暇の日に自主練し、職場では「お客様を第一に考える」という社の根本に立ち返り、人間性、魅力を上げる努力を重ねた。
2度目の試験から数日後。仕事を終えて家に帰ると、結果の入った封書が届いていた。母親が見つめる中、震える手で空けると、そこには〝合格〟の二文字が。「信じられなくて、思わず叫び声を上げました」
それから10カ月余、片寄さんは念願のステージで最高の笑顔をみせた。避難先で、ピアノ演奏に喜んでくれた人たち。今度は大好きなフラで、多くの人を喜ばせてあげたい。昨年12月には、オリジナルアニメ映画「フラ・フラダンス」が公開され、一気に5人もの〝仲間〟が加わった。
「そのメンバーたちと一緒に感謝の気持ちを持って、『また見たいね』と思ってくれるような、自分の気持ちを素直に表現できるダンサーになりたい」。1人でも多くの人に笑顔と元気を届けるため、片寄さんは今日もステージに立ち続ける。
◇   ◇
東日本大震災、東京電力福島第一原子力発電所事故から11年。〝10年の節目〟を終え、記憶の風化が懸念されている。
しかし私たち被災者にとっては、まちの情景が変わろうが、ものが充実しようが、今も〝あの当時のまま〟。ただ、苦しさ、悲しさ、さまざまな感情を抱えながらも生きていくためには、歩んでいかなければならない。
前を向き、希望あふれる明日へ――。今特集では、未来に向かって進む市民たちの今のリアルを紹介する。「未来へのメッセージ」が1人でも多くに届くことを祈って。

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