あの忌まわしい大震災が起きた2011年、新聞に身を置くものとして、考えさせられる事件が千葉で起きている。乗客を人質に取ったバスジャック事件だ▼犠牲者も無く短時間で解決したこの事件のどこが考えさせられるのか。それは、「マスコミを呼べ」と犯人から要求を受けた警察が、社名入り腕章を貸してほしいと取材中の記者に依頼。誰もが断る中、あるローカル紙の記者がその依頼に応じたという点▼人命に関わり、一刻の猶予も許されない状況だったとはいえ、その記者には当然ながら批判が集中した。半面、短時間での解決につながり、犠牲者も出なかったと称賛の声も少なくなかった▼報道に対しての信頼性の失墜など、報道倫理に反する事だし、決して許されることではない。ただ、黙って見過ごせないという記者の判断をそのまま断罪することはできるのだろうか。事実を公正に報道するのが新聞の役目だが、その記者の気持ちも大事にしたい。