毎年この時期になると、大学に入学した時の事を思い出す。150人弱の当時としては少人数の学科で、入学後の最初の行事は、先輩たちが企画する泊まりがけの新歓合宿だった▼新入生は5つの班に分けられ、そこに何人かの上級生が入る。新入生の中には、わがままし放題のアイドル歌手の卵がいたり、桃しか食べないという新興宗教の教祖の息子がいたり、ちょっとどころか、かなり変わっていた。特殊な学科だった事もあり、誰も疑う人はいなかった▼合宿の閉会式、その変わった人達は、先輩達が送り込んだ偽装1年生で、新入生をだましていたと暴露される。興奮は最高潮。先生達も巻き込んだこの企画は、その学科の伝統だった▼だます事はいけない事だが、緊張や不安の払しょく、何より、同級生や先輩達との距離が一気に縮まる結果となり、すべてが許された。「合格おめでとう」の気持ちのこもったサプライズだったのだ。忘れられない思い出の一つだ。
片隅抄