先月頭に不用意から利き足を骨折し、家族と職場の同僚、仕事関係者に多大な迷惑をかけた。あまりの申し訳なさで心が張り裂けそうだった。腫れと痛みはまだ残るが、ギプスも取れ、ようやくリハビリに。しかし足首も固まったままで思うように動けない▼繰り返す脳梗塞と癌で松葉杖と車椅子生活を余儀なくされた、亡き母の苦労を今さらながらに痛感した。一日の大半を過ごすベッドで、ぼうっと天井の板の節を数える姿を思い出す。不満や愚痴を言わない強い女性だったが、体が不自由だと時に心が折れかかる。「代わってほしい」とポロっとこぼした、あの表情は忘れられない▼不自由を常と思えば不足なし。心に望み起こらば、困窮したる時を思い出すべし――。身体的理由を指している訳ではないが、家康公の遺訓が身に染みた▼急ぐべからずだ。齢を重ねると「何事にも意味がある」と感じるようになる。無駄ではない。骨折から多くを学ばせていただいた。
片隅抄