取材で観賞したのだが、そのストーリーに打ちのめされた。青森中央高等学校演劇部が2日、常磐線舞台芸術祭のプログラムで演じた「ジンコちゃんの世界」だ▼ガラス瓶の中のたった一個の休眠卵から始まったミジンコの王国の10日間とそれを見つめる少女。舞台はさまざまなユーモアに包まれつつも、根底には震災で傷付いた心があり、命とはどういう存在なのかを突き付ける内容だった▼くしくも本市で初演されたのは、いわきアリオスで2016年に行われた「東北地区高等学校演劇発表会」。再び被災地で上演される機会に恵まれた。主人公の少女を演じた3年生の部長は、舞台上での迫力とは一転、「実際に経験した人たちが、どのように感じるのか不安だった」と訛りのある言葉で打ち明けてくれた▼震災から12年が経ち、どうしても記憶は風化していく。演劇を通じ、これからも高校生が被災地に心を寄せ、それを見た人たちに得るものがあるならばうれしい。