東日本大震災から13年を迎えた11日、久之浜漁港はいつもと変わらず活気に満ちあふれていた。午前9時すぎ、市漁業協同組合(市漁協)の組合長・江川章さん(77)の「第28新章丸」が港に戻ってくると、かごいっぱいのヒラメやタイ、スズキ、アンコウなどの「常磐もの」が次々と競り場に運ばれた。
「ここ最近は豊漁。特にタイやスズキが大きいね」と江川さん。東京電力福島第一原発事故に伴う試験操業を乗り越え、国の助成事業「がんばる漁業復興支援事業」に取り組みながら、本格操業の実現を目指している。何よりも安全で、おいしい魚を食卓に届ける思いを強くしてきた。
汚染水を浄化した後の処理水を巡り、昨年8月から始まった海洋放出は、現段階で問題は確認されていないが、不安がないわけではない。今年2月には弁の開閉操作の人為ミスによって、汚染水が漏れ出るトラブルもあった。
「もしこれが外に出たなら、これまでの13年はすべて水の泡」。30~40年かかる廃炉作業のため、東電だけにとどまらず、下請け企業も含め、緊張感を持ってほしいと口を酸っぱくする。
60年以上にわたって、海の男として生きてきた矜持(きょうじ)もある。23歳で父の跡を継ぎ、この久之浜で漁を続けてきた。原発事故に翻ろうされた中で、政府や東電が相手であっても、一歩も引かずに漁業者としての主張を貫く。「このままじゃ、次の担い手がいなくなってしまうから」と、後継者を取り巻く環境にも気を配ってきた。
魅力ある持続可能な水産業を目指して――。これからも変わらず励んでいく決意だ。
(写真:水揚げされる「常磐もの」。左から2人目が江川さん)
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