朝日訴訟と生存権、砂川事件と適正手続の保障、家永教科書裁判と表現の自由――。中学時代、資料集を読みふけって憲法に触れた。一番忘れられないのは、尊属殺重罰規定と法の下の平等だ▼最近の朝ドラでも描かれた。実父から長年にわたって性暴力を加えられた女性が、この関係を断ち切りたいと思い悩んで、首を絞めて殺害した。当時は父母や祖父母を殺害すると尊属殺人罪に問われたが、法定刑が最低でも無期懲役で、刑の減軽は懲役3年6月が限度▼事件の異常性を踏まえても、執行猶予が付けられない。しかし1973年、最高裁は尊属殺人罪は違憲と判断し、通常の殺人罪を適用して執行猶予付きの有罪判決を言い渡した▼久しぶりに裁判員裁判を取材し、量刑のあり方を考えた。いまは重大な犯罪の場合、一般市民とプロの合議で判決を導く。果たして何の罪もない85歳の女性を、金品奪取の目的で殺害した場合は。少なくとも酌むべき事情は見当たらない。