「いわきの皆さん、演奏が終わったら立って拍手をしましょう」。もう20年以上前になる。旧平市民会館で海外のオーケストラが公演した際、小名浜出身の世界的指揮者・小林研一郎さんが、スタンディングオベーションになじみのない満員の聴衆に向けて優しく語りかけた▼小林さんは「きょうは日本人の奏者がいます。彼女には聞かなかったことにしてもらいましょう」と重ねると、会場は大いに沸いた。確かアンコールで、楽曲はブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」だったはずだ。力強い演奏を終えると、総立ちで拍手が送られた▼19日にアリオスで、小林さん率いる「コバケンとその仲間たちオーケストラ」による公演が、ふるさとの後輩に当たる小名浜の小学5、6年生を招待して開かれた▼国内外で活躍しても、いつも郷里を忘れない小林さんの温かさを感じた。御年85歳。「まだまだこれからだと思っています」と話すマエストロに、心が揺さぶられた。