オリンピックなどのスポーツシーンで、金メダルを取った(優勝した)選手がその瞬間、雄たけびをあげ、何度もガッツポーズをして跳びはねる姿は見る者の胸を打つものだ▼しかし昔から、柔道や剣道など礼儀を重んじる武道は、敗者への配慮から喜びを胸に秘め、淡々と試合場を去るものとされてきた。たとえ悔しい敗者になっても勝者を称えたものだ▼感情を素直に表へ出す外国人にはそれが奇異に見られたときもあったが、五輪柔道を例に挙げれば、今や日本人選手も外国人と変わらなくなった。感情を内に秘める日本人の美徳はもう古いのかもしれない▼1年納めの大相撲九州場所を制したのは戦火にあるウクライナ出身の関脇安青錦だった。序ノ口からスタートしてわずか13場所で優勝と大関を手中にするスピード出世。しかし優勝の瞬間は朝青龍や白鵬が見せたガッツポーズどころか、表情ひとつ変えなかった。親方の教えか本人の性格か…。美しき勝者だった。