直木賞作家三浦しをんの最新作『舟を編む』は、総合出版社の辞書編集部を描いた小説。表題は「辞書は言葉の海を渡る舟」との意によるが、随所に語句の意味や用法が出てきて、興味深かった▼中に「〝下駄箱〟は死語で、今は〝靴箱〟と呼ぶ方が多いのでは」といった内容のくだりがあった。生活様式の変化とともに「生きている言葉」を身近に感じた▼また「言葉は流動する。それゆえ辞書はどんなに完ぺきを期しても、決して〝完成〟しないもの」ともあり、言葉を生み使う人間がいる限り、終わりのない仕事に気の遠くなる思いさえした。新しい辞書や版が出たら、すぐまた改訂作業が始まるという▼中高生時代、何げない日常語の意味を面白がって調べた思い出がある。また、目的の語句の前後にまで目が行き、思わぬ副産の情報を得た経験も。辞書ならではの薄く吸い付くようで、だがめくりやすい紙質も趣がある。秋の夜長の1冊に辞書を選ぶのも悪くない。