先月下旬、知人の書家からメールがあった。内容は「今年をもって工房を終了いたします」とのこと。20年前、東京の書道教室から独立し、いわき市内の各会場などで指導していた▼開設当初、営業関係で知り合ったのだが、こちらは「書」についてはまったくの門外漢。教材に使うさまざまな詩歌、俳句、さらには古今の作者についても造詣が深く、会って話すたび随分勉強になった▼ある時、NHK大河ドラマにふれ「新しい番組になったら、必ず最初の題字を見る」と言い、当時の大物芸能人が揮毫したタイトルに辛口の評価を下したこともあった。また、巷間よく知られる『親父の小言』についても調査した▼原文を所蔵する浜通りのある寺院に同行し、一般に定着した独特のひげ文字とは異なる細字での書を確認したのもよい思い出。住居の津波被害と親の介護が今回の決断につながったようだ。好んでしたためた「来し方行く末」を大事にした人らしい。