文化とは「思いを表現すること」だと思っている。そしてそれを成せるのは人間のみだとも。動物にも喜怒哀楽の感情はあろう。しかし人以外はそれらを、鳴く・ほえる・すくむ・震えるといった体表現でしか示せない▼言葉や芸術による表現は人間ゆえのもの。さらにそれは日々の暮らしの中に息づいているものに相違ない。震災以降それをより強く感じている。なぜなら、震災体験が生んだ作品が多数あり、そんな作品のすべてから、表現せずにはいられないという思いが伝わってくるからだ▼弊社主催のふるさと出版文化賞最優秀賞を受賞した、好間町の北郷光子さんの歌集『春告げ鳥』もそうだった。北郷さんは「技巧も何もない。日々の思いを詠んだだけ」と言う▼だからこそなのだ。そこにはいわきに住むわれわれが共感できる気候風土が、伝統が、そして震災があった。その中の一首を記し置く。「世界的フクシマなどは望まざり元の穏やかなる福島を恋う」