地震で出たがれきの山に散り積もる桜の花びらに、確実に時の流れが現れている。震災直後の寒さを遠くに感じた▼あのころ、凍えながら給水所やガソリンスタンドに並んだつらさは誰もが覚えているだろう。しかしそれも今となれば「水の重さには参ったよな」「20㍑のガソリンを入れるのに3時間待ったなあ」など、笑いながらの話題になった▼「日薬」「日にち薬」という言葉がある。「時間がたつことで傷が徐々に癒えていく」ことを指す。穏やかな陽気のせいもあり、そんな言葉が実感できる今日このごろ。少しずつ市民の中に「日にち薬」が効いてきているのかもしれない▼ただ今回の震災では、いわきも含め「原発事故」また「止まらない余震」など、まだまた「日にち薬」の段階ではない面も大きい。そんな中でも、被災した家の整理中に、忘れていた大切なものを見つけ、家族で思い出を振り返ったという話も聞く。これもまた一服の「薬」には違いない。
片隅抄