没後30年を迎え、再び脚光を浴びる向田邦子さん。雑誌編集者から脚本家、さらにエッセー、小説の分野でも才能を発揮させ昭和55年に直木賞を受賞するも翌年、痛恨の飛行機事故で世を去った▼男女問わず幅広い読者層を持つ向田作品。その代表作に『父の詫び状』がある。戦前戦中の日常生活、家族関係などを記した短編集だが、表題は日ごろ暴君に近い父親がある日の家事をこなした娘にわずか1行あまりの文章で感謝する内容だ▼言葉で伝えられない明治男とその心情が痛いほど分かる昭和の長女。この体験がのちの良質なテレビドラマに開花した。現在、濃密な関係を築く家族、親子は希少だろう。それどころか親が子を、子が親を殺す昨今だ▼いわき南署管内では7月から先月にかけ、息子が親に暴行した傷害致死事件が2件発生した。ひとつは口論の末の犯行もあった。震災では、多くの家族が肉親を失い悲嘆にくれている。自制はできなかったのか。
片隅抄