俳優の西田敏行さんが歌う『あの街に生まれて』を聴くと、なぜか胸打たれる▼福島県出身の人気俳優というメリットを生かして、あるときは大地震と原発事故で苦しむ県民を代表して国や東電の対応に怒りの矛先を向けた。歌の力で県民を励まそうと県内で行われた『LIVE福島』でも、西田さんはこの曲を高らかに歌った▼震災でふるさとを追われた人たちの心情がよく描かれた秋元康さん作の歌詞だ。「負けそうになった時は故郷のあの空を目を閉じて思い浮かべた 懐かしい海と山がいつだって味方だった」▼いわきには原発事故で自宅に戻れない双葉郡の人たちが数多く避難している。特に双葉や大熊、富岡は深刻で、いつ帰還がかなうかわからない。「将来の見通しもなく、仮設住宅で暮らす日々はみじめだ。自分の代で戻れなくても、子孫には私らのふるさとを取り戻してほしい」という話を聞いたことがある。市民はこうした声に理解を示さねばならない。
片隅抄