震災後1年に合わせ連日、各メディアが特集を組んできた。が、被災地市民の心情として、記事を読み進めたり映像を見続けたりすることができぬこともあった▼自身も自宅を津波に襲われた。惨状を目の当たりしたのは翌12日朝、沿岸部への立ち入りを制止する消防署員を押し切り、がれきを踏み越えやっと着き、途方に暮れた。そしてその時から、砂と海水にどっぷりつかった家の片付け作業が始まった。もっとつらい思いをした人は大勢いる▼ある講演の中で「被災地を巡る中で出合った〝生き残ってしまった〟という言葉が心のおりになっている」という話があった。1年たっても、少なからぬ人がいまだその思いから抜けられずにいることを感じる。しかし、いつかは越えてゆかねばならぬと意識していることも▼講師は続けた。「自分の中に新しい種をまき、変わっていくことも、生きている者の務め」だと。今なお苦しんでいる人に、この場を借りて伝えよう。